「和牛は、生育から出荷まで多くの職人が育てる芸術品」と店主の大井誠さんは言う。本県の黒毛和種「山形牛」については「見た目が派手な肉質ではありませんが、味が濃くて全国的な評価も高いんです」とのこと。千山閣では、山形牛のバラ、ロース、タンやテールなどをはじめ、ザブトンやミスジ、ランプやイチボなどほぼ全部位を揃える。とはいえ1頭から数キロしか取れない希少部位もあり、メニューには載らないものも多い。また、ホルモンの種類も豊富だ。

そんな千山閣ならではのメニューをご紹介。「千山盛」は4種類の盛り合わせで、この日はブリスケ、カイノミ、ササミ、タテバラと人気部位揃い。「花咲きロース」は外モモのシキンボという部位で一般的にはローストビーフなどに使われるが、大井さんは細かく包丁を入れて新しい食感を開花させた。「センボンスジ」は後ろずね。きめ細かな筋肉質で、噛むほどに甘みを感じる。

もちろん和牛だけを扱っているわけではない。手ごろなメニューにも精選した食肉が使われる。肉は繊維やサシの入り方などを見極めながらすべて手切り。焼肉はお客さんが焼いて仕上げるが、最高の食感にすべく提供するのがこの道30余年の大井さんの矜持だろう。もちろんタレの味も抜かりがない。千山閣は千客万来、誰もがホクホク顔をして食事をしているのが、この店を語るすべてだ。熱い火とイイ肉の前では誰もが血沸き肉躍り、日ごろのアレコレも吹き飛ぶ。そんな力を与えてくれる焼肉店が鶴岡にあることは、何よりの活力になる。